ケージとグリーグ2022年03月25日

ステキなコンサートを体験した夜は幸福感に包まれて眠れるけれど、ひどいコンサート(たまにある)の夜は腹立たしくて眠れない。23日の夜は満足度の高いコンサートで脳が活性化しちゃって眠れず。次の日も疲れが取れなくてblogを書く気になれず。やっと本日感想をまとめる気になりました。

Tomoki Kitamura Real-time vol.3"Cage&Grieg"
北村朋幹ピアノ・リサイタル 
2022年3月23日(水)
ムジカーザ

本来なら昨年のクリスマス・イブに行わる予定がコロナ禍で延期。待ち遠しかったコンサートです。

14:00~ジョン・ケージ:プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード
グランドピアノの弦の間にネジやゴムなど様々な材料をを挟んで演奏するプリペアド・ピアノ。その材料の特徴に応じて、音の響きを変化させることができます。どこの弦の、ダンパーから何インチのところに、何を挟むかの図表が楽譜の最初に示してあります。ネジとかボルト(小さいボルトとか家具用のボルトとか細かく指定!)とかゴムとか消しゴムとか。ん?図表を見ると、消しゴムは製品まで指定してあります。今回は?指定の消しゴムを使ったのかしら…。知っていたらもっとよくピアノの中を見たのに。見てもわからないか…。開演までは、材料を挟んである状態をのぞき込むことができ、みなさん興味津々でした。もちろん私も。残念なことに撮影禁止でしたけれど。

ピアノを囲む座席配置でしたので、低音部後方の席で鑑賞。楽譜も、指も、ペダルも見えて面白さが倍増だったように思います。
どんな音かと言いますと、ガムランのような音や、お寺の鐘(ほど響かないけれど)の音や、アルミの鍋の蓋を菜箸で叩いたような音がします。家に帰ったら鍋の蓋を叩きたい衝動に駆られたけれど、我が家にはもうアルミの蓋はありませんでした…。あと、ピアノの枠の木の音も聞こえます。
高音部分で硬質の音で細かいパッセージが奏でられたり、中低音部はもそもそした音が散発したり。低音の「レ」の鍵盤の材料は、例の消しゴムでした。私の想像では、木魚より一回り大きい形の楽器。木ではなく金属。中は空洞じゃなくて布が入っている。それをフェルトのマレットで叩く。そんなイメージが脳内を駆け巡ります。
そんな音たちの中に、ときどきピアノ本来の音が現れます。当たり前の音のはずなのにかえって「ドキッ!」とします。新鮮。
今まで、無機質な音楽のように感じていましたが、全然そんなことはなく、音楽を深く感じることができたのは、演奏者の力量によるところが大きいのでしょう。

終演から夜の部までの時間、友人と二人、大いに語り合いました。

そして、
19:00~グリーグ:《抒情小曲集》より
「この曲集しか演奏しないプログラムってどうなの?普通は、前菜的に数曲演奏して一度ステージを去り、遅れてきたお客さんを会場に入れて、さあメインディッシュへ!という位置づけじゃないの?」
「この曲集しか演奏しないってことは、どういう選曲構成にするんだろうね?まとめるのって難しそうだよね?」「プログラムに《抒情小曲集》しか書いてないよ。各曲のタイトルはないの~?」
開演前の私たちの会話です。

さて開場。今度は俯瞰できる2階席へ。ふと1階の客席を見ると、北村朋幹さんが友人と談笑してるじゃありませんか。へえ~余裕。私たちも雑談をしていて、あっという間に開演5分前。いつの間にやら北村さん、ピアノに向かっています。楽譜をぱらぱらとめくったり、メモ帳になにやら書いたり。19時、横に置いてあるスタンドの灯りをパチッと点けて、しゃら~んとカデンツを弾いて、何気なく演奏を始めました。

そうか。ここは北村さんのプライベートなお部屋なのね。一人で気の向くまま、小曲集を弾いている設定。そこには前菜もメインディッシュもない、構成を考える必要もない。楽譜をぱらぱらとめくっては、そのときに気が向いた曲を弾いていく。ありますあります、そんな時間。そして、抒情小曲集はそんな時間にぴったりの曲集です。

そうと分かれば、こちらもそれに身を委ねるだけです。「Arietta」「Vals」「Norsk」…。一人芝居の演劇を観に来ているような錯覚に陥りました。言葉はないけれど、音楽は雄弁に語る。もしかしたら意図的な構成もあったのかもしれないけれど、別にわからなくてもいいよね~という気持ちで聴き続け、最後の「Efterklang」が終わり「眠くなったから寝よう」とばかりにスタンドの灯りを消して暗転。終了。

ぜひまた、北村朋幹さんの演奏会に行きたいと思います。